第三話【あまねく者】

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 「先生ったら、お上手なんだから」  「本当だよ、ママは綺麗だよ。ともみママ、何か欲しい物は?」  「それなら、もうちょっと、こまめに会いに来てくれませんか?」  キャバクラのママをしているゆあさともみが相手しているのは、ここを贔屓にしてくれているどこぞの病院長だ。  ともみの手をぎゅっと握りながら、若い子よりもともみが好きだとずっとアプローチしている。  「先生、酔ってるじゃありません?」  「先生じゃなくて久道と呼んでくれよ、ママ」  「じゃあ、久道さん?」  「なんだい、ともみママ?」  「そろそろ他の常連様のところにも顔を出したいから、いいかしら?私よりもずっと若い子が相手してくれるわよ」  「酷いなぁ。ともみママ一筋なのに」  「奥様がいらっしゃるでしょ?」  「いいんだよ、政略結婚の相手だ。心から愛しているのはママだけ」  「はいはい」  こうして酔っ払いの久道の相手をさせられていたともみだが、相当気に入られていた。  欲しい物は無いと言っているのに、服や鞄、靴や宝石など、どんどん買ってきてはともみに渡すのだ。  そんなこんなで、週に4回から5回ほど通うほどになっていた。  「ママ、今日こそ俺だけを相手にしてくれよ?」  「あら、じゃあ、さぞかし面白い話でもしてくださるのかしら?」  「面白い話?・・・ああ、じゃあ、昔の話でもしようか」  酒がどんどん進むと、久道はぐいっとともみの肩を自分の方に引き寄せて、まるで耳にキスしているかぐらい近くで話そうとする。  だが、ともみが両手を添えて胸を押し返したため、至近距離での話となった。  「昔、俺は司法解剖をしていたんだ。これでもちょっと有名な解剖医でね」  「まあ、素敵」  「だろ?何年か前、若い男が部屋で死んでて、検視官をしてたのが俺の知り合いの奴だったんだけど、事件性があるかもしれないって言っていたんだ」  「大変じゃない」  「ああ。でも、生憎その日は俺しか解剖医がいなくて、俺は俺でキャバクラに行く予定だったんだ」  「あらやだ、そんな時まで?」
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