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「先生ったら、お上手なんだから」
「本当だよ、ママは綺麗だよ。ともみママ、何か欲しい物は?」
「それなら、もうちょっと、こまめに会いに来てくれませんか?」
キャバクラのママをしているゆあさともみが相手しているのは、ここを贔屓にしてくれているどこぞの病院長だ。
ともみの手をぎゅっと握りながら、若い子よりもともみが好きだとずっとアプローチしている。
「先生、酔ってるじゃありません?」
「先生じゃなくて久道と呼んでくれよ、ママ」
「じゃあ、久道さん?」
「なんだい、ともみママ?」
「そろそろ他の常連様のところにも顔を出したいから、いいかしら?私よりもずっと若い子が相手してくれるわよ」
「酷いなぁ。ともみママ一筋なのに」
「奥様がいらっしゃるでしょ?」
「いいんだよ、政略結婚の相手だ。心から愛しているのはママだけ」
「はいはい」
こうして酔っ払いの久道の相手をさせられていたともみだが、相当気に入られていた。
欲しい物は無いと言っているのに、服や鞄、靴や宝石など、どんどん買ってきてはともみに渡すのだ。
そんなこんなで、週に4回から5回ほど通うほどになっていた。
「ママ、今日こそ俺だけを相手にしてくれよ?」
「あら、じゃあ、さぞかし面白い話でもしてくださるのかしら?」
「面白い話?・・・ああ、じゃあ、昔の話でもしようか」
酒がどんどん進むと、久道はぐいっとともみの肩を自分の方に引き寄せて、まるで耳にキスしているかぐらい近くで話そうとする。
だが、ともみが両手を添えて胸を押し返したため、至近距離での話となった。
「昔、俺は司法解剖をしていたんだ。これでもちょっと有名な解剖医でね」
「まあ、素敵」
「だろ?何年か前、若い男が部屋で死んでて、検視官をしてたのが俺の知り合いの奴だったんだけど、事件性があるかもしれないって言っていたんだ」
「大変じゃない」
「ああ。でも、生憎その日は俺しか解剖医がいなくて、俺は俺でキャバクラに行く予定だったんだ」
「あらやだ、そんな時まで?」
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