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「唯一の楽しみだったんだ。でも、それは事故で、現場に居た警官が言うには、不審な人はいなかったッて言うんだ。確か、どこから噂を聞いたのか、記者が一人いたらしいが、不審者がいなかったことには変わりない。だから、俺はその知り合いの検視官に金を渡して、自殺だって判断させたんだ」
「あら怖い。そんなことすると、恨まれるんじゃありません?」
「はは、恨むって誰が?」
「んー、分かりませんけど」
「心配ない。このことは、俺とその知り合いしか知らないことだ。それとママの三人だけの秘密さ」
グラスが空になったため、ともみはボーイに頼んで酒を持ってこさせる。
酒が届くと、久道の好みに合わせてサイダーで割り、手渡す。
「そう言えば、息子さんもお医者さんなんでしたっけ?」
すぐに久道がグラスを空にしたため、ともみは別の酒を持ってこさせる。
「そう。これが馬鹿息子で。裏口入学させたんだ。じゃなけりゃあ、あいつに医者は無理だ。あいつが馬鹿なのは女房のせいだな」
「そういうこと言うもんじゃありませんよ。とっても美人で気の利く奥さんだって聞きましたよ?」
「ママには敵わないよ」
「これはお仕事ですから。プライベートではずぼらかもしれないでしょ?」
「ママと一緒に暮らせるなら、それでも良いかなー」
「飲み過ぎですよ。今お水持ってきますから」
ともみは立ち上がって水を持ってくると、それを久道に飲ませる。
それでも足りそうになかったため、もう一杯持ってきてそれも飲ませた。
「お気をつけてお帰り下さいね。随分酔っ払っていらっしゃるから」
「大丈夫だって!じゃあね、ママ!」
久道が帰ってすぐ、ともみは何か買いだしに行ってくると出かけた。
「うー・・・」
その頃、久道は千鳥足で線路の上にある歩道橋を歩いていた。
古びたその歩道橋は、フェンスの高さもそれほど高くなく、久道程の背丈ならばちょっとバランスを崩しただけで落ちてしまいそうだ。
「久道さん?大丈夫ですか?」
「ママ!どうしたんだい!」
「あまりに飲んでらしたから、心配になって見に来たんですよ」
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