第三話【あまねく者】

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 「ママは優しいなー!!」  「私に掴まってくださいな」  ともみの言うとおりに肩に腕を回そうとすると、ぐるん、と視界が反転した。  「え?」  自分の身体が重力に逆らえないのを感じながら、見えていたのは、ただこちらを見つめている誰かの影だった。  「あなたのような人が、私のような人を作ったのよ。妃先生・・・」  私は数年前まで定食屋を営んでいた。  近くには大学があって、そこに通う若者が帰り時間になると沢山来ていた。  その中に、いつも一人で来ている男の子がいた。  暗い感じでもなく、きっと一人が好きなんだろうと思っていた。  彼は常連になっていて、美味しいと言ってご飯を食べてくれるし、時間があるときにはバイトもしてくれていた。  とても良い子だった。  それなのに、彼が死んだことを新聞で知った。  その訃報を報せる記事はあまりに小さくて、きっと気付いていない人の方が多いだろう。  自殺と書かれていたけど、大学を卒業するとき、これからもっと頑張るんだと言っていたあの彼が、自殺なんてするはずがない。  最近では定食屋の近くに洋食屋が出来て、あれだけ来ていた大学生たちもそちらへ流れてしまい、店じまいをした。  たまたま募集していたキャバクラのママになって、しばらくして、彼の事件の関係者を見つけた。  「助けてあげられなくて、ごめんね」  店へ帰る途中、人が電車に轢かれたと騒ぎながら走って行く人達とすれ違った。  「命の重みを知らない人間が、座っていた良い椅子ではなかっただけのことよ」  「ママ、おかえりなさい」  「ただいま。ほらこれ、生理用品はボーイの子に頼めないでしょ?」  買い物をしてきたその袋を見せると、ともみは柔らかく微笑んだ。  『昨日の夜、酔った男性が歩道橋から線路に転落し、そのまま電車に轢かれて亡くなりました』
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