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「中井さん、またお会いしましたね」
「これはこれは、おださん」
飲み屋に入ると、そこには良く会う気の知れた仲間の中井勝がいた。
中井は良い奴なのだが、飲み過ぎると途端にファミリーネームとファーストネームを織り交ぜて呼び始める。
「りょうま!もっと飲め飲め!!」
「中井さん、飲みすぎじゃないですか」
「いいだろうが!おだ!信長と同じ名字だからって偉そうにしてるのか!!」
「その織田とは別の字ですから」
「お姉ちゃん!ビールおかわり!」
居酒屋で働いている女性に声をかけて新しいビールを持ってきてもらうと、セクハラまがいの行動をしようとしていたため、おだが止める。
なぜかおだが女性にヘコヘコして謝ると、女性は同情するように頭をさげて仕事に戻る。
「りょうまー、お前仕事何してるんだっけ?」
「なんですいきなり」
「俺はよー、こう見えて検視官なんだ!すげぇだろ!!!ベテランよベテラン!」
「すごいですねー。中井さん、仕事出来そうですもんね」
「だろ!?でもまー、楽な仕事じゃあねえけどなー」
顔を真っ赤にしながらそういう中井に、おだは水を飲むかと聞いたが、断られてしまった。
もっと酒を飲みたいらしく、空のジョッキを掲げながらオーダーしていた。
「検視で事件性が無ければ、司法解剖にまわされることは無いんですよね?」
「あー、そうそう。ま、時々、面倒だから自殺にしてる時もあるけどな・・・なんて!んなわけねぇって!一応仕事は真面目にやるから俺!!!」
「そうですよね」
「おだ、お前釣りってやるか?」
「釣りですか?やったことないです」
「なら今度一緒に行こうや!俺が教えてやるから!!道具も貸してやるし!」
「それは申し訳ないですよ。自分で用意します」
「そうか?どうせ女房とは別居中だし、俺ん家に来ても構わないんだぜ?」
検視官という仕事のせいなのか、結婚して少し経つと奥さんが我慢できなくなったらしく、どうしていつも仕事ばかりなのかと文句を漏らすようになったそうだ。
「中井さん、何か人に話せないような検視の話とかないんですか?」
「仕事上言えねぇよー」
「ですよね。中井さんほどの方なら、何かあるのかなと思ったんですけど」
少しがっかりそうに言えば、おだとは仲良くしている中井が無下に出来ることも出来ず、おだとの距離を縮める。
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