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「何年か前の事故が遭ったんだけどよ、実はその検視の時、金貰ったんだよ」
「金?どういうことです?」
「本当はな、ただの事故にしては損傷が激しいし、事故に遭う前に何かあった可能性もあったんだけどよ、目撃者もその場にいた警察官も、周りに不審な奴はいなかったって言うし、司法解剖を頼もうとしてた先生は用事があるから回されると困るっていうしで、その先生から金受け取っちゃったんだよ。で、しょうがなく事件性なし。自殺ってことで処理されたんだ」
「自殺だから轢いた方も咎められなかったんですね」
「罪が軽くなったってことだな。確かに、司法解剖に回す予算も少ねぇし、人手不足で大変なんだろうけどよ」
「もし本当に自殺じゃなかったとしたら、それこそ大変ですよね。遺族から莫大な金を要求されるとかあるんじゃないですか?」
「それはねぇだろ。当時の司法解剖担当するはずだった先生は今やでかいとこの病院長。来年には医師協会の会長になるんじゃないかって言われてるからな。今更ひっくり返そうとしても、遺体は骨になってるし、証拠も何一つなし。裁判やるにしても金がかかるから、んな無駄なことはしねぇと思うな」
「そうですか。それで、話は戻りますけど釣りって何処に行くんです?良かったら車出しますよ?」
「いや大丈夫だ。俺に全部任せておけって。ビール飲みながらのんびりやろうや。誰も来ないとっておきの場所があるんだ。りょうまだから連れてってやるんだからな」
「ありがとうございます。楽しみにしておきます」
それからしばらく飲み続け、勘定を済ませると2人はそれぞれ帰路を辿る。
その週の終わり、おだは朝早くから中井の家に徒歩で向かっていた。
多少時間はかかったが目的地に着くと、中井の家にはでかい車があって、すでに荷物は積みこんであるようだった。
家にあがることなく車に乗り込むと、中井が秘密基地とまで言う場所に着いた。
海に落ちたときようのジャケットをつけると、早速中井のうんちくから始まり、釣り竿の話へと続いて行くが、おだはそれを穏やかに聞いていた。
ビールを飲みながらようやく釣りを始めると、徐々に天気が悪くなってきた。
「なんだよ、晴れるって言ってたのに。まあ、まだ大丈夫だろ」
ぐいぐいと、魚を入れるはずのボックスに冷えたビールを入れて来た中井は、次々に缶を開けて行く。
「あ、これ引いてますか?」
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