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「お!引いてる引いてる!」
おだは自分の竿がくいくい引っ張られていることに気付き、中井に助けを求める。
中井はおだの竿を変わりに持つと、未だ強く引っ張る、その先にいるであろう大物を捕まえるために必死になる。
その時、とん、とおだが背中を押した。
バランスを崩した中井は、よろよろとしながら、足場の悪いそこになんとか踏みとどまろうとしたが、出来なかった。
高そうな竿を持ったまま海へと落ちて行くと、ジャケットが膨らむと思いきや膨らまず、徐々に荒れて行く波に抗う事も出来なかった。
「金で解決できることなんて、たかがしれてる」
おだは中井の持ってきたボックスに何かを放り込んでから、振り返ること無く家に帰る。
俺は少し前まで、警察官だった。
自分に恥じることないよう、正義を貫いていた。
だが、その事故が全てを変えた。
俺の少し上の同僚の奴が、自殺だと言い張ったんだ。
目撃者だってもっと沢山いたはずなのに、ほとんどの奴らが怖くてなのか、関わりたくなくてなのか、いなくなっていた。
証言した奴だって、本当に目撃者か怪しいもんだ。
現場に来た検視官とその同僚はちょっとした顔見知りのようだが、今となってはどうでも良いことだ。
何しろ、口が利けないのだから。
『行方不明だった男性が発見されました。男性はお酒を飲みながら釣りをしており、その最中に海へ落下したものと思われます。ジャケットを着用しておりましたが、穴が開いておりそのまま沈んでしまったものと思われます』
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