①上の村

14/22
前へ
/23ページ
次へ
「すみません。突然、失礼なお願いをして。」 振り向くと、青ざめた顔で真理子は震えていた。 恥をかかされた怒りで震えている様子ではなさそうだ。 帰る道すがら、私達は一言の言葉も交わすことはなかった。 私は、真理子の家に着くと、すぐさま携帯電話をとりだした。 この村の連中が、ここから出さないということであれば、自分で帰るしかない。 どうやら、この村にはバス停がない。どんなにお金がかかっても良いから早くこの村を出たい。 その思いで、私は携帯のロックを解いて、タクシーを呼ぼうと思った。 圏外。 予想しなかったとは言えないが、さすがにこの現実には絶望した。 「こうなったら、君に責任を取ってもらう。明日の朝早く、まだここの連中が寝静まっている時に、私はこの村を出る。車の鍵を渡してもらおうか。」 私は、真理子に迫った。真理子は言いにくそうに、口を開く。 「無駄だと思います。先生だけでは、この村を出て行くことは出来ません。」 「じゃあ、君が案内してくれ。」 「私は、明日には生贄になるので、行けません。」 私は呆れた。 「まだそんな非現実的なことを言っているのか?生贄だなんて、そんなことがこの国で許されるわけないだろう。」     
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加