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「本当です。ヨグ=ソトースの召喚の呪文を唱える時は知的な生物を神に捧げなければなりません。
私は、捧げ物となるのです。」
埒が明かないと思った。狂人に何を言っても無駄なのだ。
「そうか、わかった。それでは、君の望みどおりに、君を連れ出してやろう。
生贄になる前に、君を助けてやる。村の連中も、寝静まっている時は追ってはこないだろう。」
真理子の顔に一瞬、希望の表情が浮かんだ。
いいぞ、その調子だ。
「でも、私は、きっと連れ戻されます。」
「君は、村を出たら、誰かと交われば良い。村の男以外だったら誰でもいいんだろ?」
私がそう言い放つと、真理子の瞳から涙が溢れてきた。
少し、言い過ぎたか。
「私、先生が、好きです。」
「そんな言葉には騙されないよ、悪いけど。」
「本当です。先生の著書を読んで、そのお人柄に惹かれました。何度も何度も、あの本を読み返しました。星に対する、純粋な気持ちに心打たれました。」
そう言うと、机の引き出しからボロボロに擦り切れた、私のただ一冊の著書を出してきた。
私のファンであることには間違いないようだが、初対面の女性を愛することができるほど、私は若くない。
「とにかく、私は、この村を出る。協力してくれるね?」
真理子は静かに頷いた。
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