①上の村

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「私達が逃げ出すことは、もう気付かれてました。だから、私は、逃げられないように拘束されたんです。」 馬鹿な。この近代社会に生贄というような、バカげたことが本当に行われるなんて。 私は、真理子の駆け寄り、真理子の手足の拘束を解いてやった。 「ダメです。先生。あなたまで生贄にされてしまいます。逃げて、先生。」 私は、哀れな少女を抱きしめた。 「逃げるぞ。」 私は、真理子の手をかたく握る。 ざざざざ。 その時、廊下から、物音が聞こえた。 ざざざ、ざざざざ、ずぞぞぞぞぞ。 何者かが、廊下を這い回るような音。 そのうち、全ての襖がカタカタと小刻みに揺れだした。 私は恐ろしさに固まっていると、真理子が震える声で囁いた。 「・・・見つかってしまいました。」 その刹那、襖から黒く鋭いものが、バリンと音を立てて突き出してきて、寸でのところで、私の手の皮一枚をかすめた。 「・・・っつ!」 手の甲から、生暖かい血が滲んだ。 その直後、襖は大きな音を立てて倒れ、襖の向こうに何か巨大な黒い影がいくつも並んでいた。 ろうそくの炎にぼんやりと、その輪郭が浮かぶ。 「えっ!」 私は思わず、叫んだ。 その姿は異形の物。黒く光る、鋼のような楕円形のフォルム。頭には触覚が生え、足は無数に動いている。     
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