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②外の街
はっと目が覚めると、そこは病院の冷たい椅子の上だった。不覚にも寝てしまっていたらしい。どうしてあんな夢を見てしまったのだろう。冬にもかかわらず、ぐっしょりと濡れたシャツが背中に張り付いてひんやりとした。真理子からあんなグロテスクなものが産まれてくるなんて。しかも、真理子も医師も食い散らかすなどあり得ない。
振り返り病院の大きな窓からは、無数の光が眼下に漂っており、闇に触手を伸ばして何かが潜んでいるかのような妙な妄想に囚われた。私は疲れているんだろうか。
「おぎゃあ!」
その声で私は我に返った。
産まれた!
私はとたんにソワソワして、医師が出てくるまでの時間が何時間にも感じられた。
「おめでとうございます。女の子ですよ。」
私は、その小さな命を手渡された。あまりにも儚すぎて抱くにも恐ろしかった。
「頑張ったな、真理子。」
私は自分よりずいぶん若く美しい妻を労った。妻の微笑みに、先ほどの悪夢は消し飛んでいた。
我が娘は、残念ながら私に似ているらしい。まあ、娘は父親に似たほうが幸せになると言うではないか。まんざらでもなかった。
小さな手が私の小指を掴んだ。意外と力強い。こんな幸せが私に訪れるとは思わなかった。自分がこうして父親になることなど、到底想像もつかなかったのだ。この子の為にも頑張らねば。
あの村での不思議な出来事を、書き記そうと思ったがやめた。とりあえず、家庭を持つからには安定した収入が必要だ。作家なんて商売は浮き沈みが激しい。世の中、出す本の全てが売れるなんてことはあり得ないのだ。
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