逢う魔時

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「あっ!ああっ!いいっ。そっ、こっ!」 「やっば…。ほら、力弥さん俺の上でひざ、立ててみて。そう。両手は少し後で…。」 「やぁ…見えちゃうぅ。つながってるところ…そんなに見ちゃ、ヤダ…。あ、ああっ、動いちゃっ、や、だあぁ!」 力弥は藤虎に夜毎強請って、抱かれている。そして藤虎は力弥が意識を飛ばすほど激しく抱いて、力弥を一時だけぬけ殻のように空っぽにしてくれる。 日中、藤虎の家で一人留守番していると、負の思念に絡めとられてしまうから。父親と名乗り、力弥を悪しざまに罵った男。幼い頃の記憶に残っている父親は、逆光のシルエットや後ろ姿ばかりだ。顔も、声も思い出せない。もう一生、会うことはないと思っていたのに。薄汚れたスーツ。べたりと額に張り付いた前髪。金をよこせと恫喝した時の、醜く歪んだ表情。ばーちゃんと僕を捨てて、出ていったくせに。僕よりも、知らぬ誰かのお腹に宿った子どもを選んだくせに。自分だけならまだしも、母のことまで気味が悪いだなんて。お前なんか、お前なんか!力弥の中に怒りが渦巻く。 いつまで、隠れていなければならないのだろう。父親の影から。どうやって逃れればよいのだろう。フランスへ、戻ろうか。そうすれば、もうこれ以上藤虎に迷惑を掛けずに済む。でもそれは二人の関係の終わりを意味するはずで…。気が付くと、朝も昼も、何も食べられなくなった。藤虎が帰ってくる夜だけ、心配かけないように一緒に食事をしている。
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