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「そういう名前なんだ。今日は豚肉焼く時に、それをやってみた。」
少し照れくさそうに、藤虎が微笑む。
「手間がかかるけど、それをやると表面はカリッとして、中はジューシーに仕上がるよね。今日のポークソテーは、だからこんなにおいしいんだ。嬉しいな。藤虎がそうやっておいしいもの作ろうって思ってくれたこととか。僕の真似、してみよう、って思ってくれたこととか。えへへ。なんだかすごく、幸せ。」
そう言ってはにかんだ力弥はスパークリングワインをくっと呷ると、少しうつむいてぼそぼそと独り言をつぶやいた。
「ん?力弥さん、何て言ったの?」
「何でもない!」
力弥の向いに座っていた藤虎は席を立つと、力弥の横にしゃがみ込んで赤くなった横顔を見上げる。
「何て言ったか、教えて?」
「……っ。藤虎の、こういうところも、好き、って言ったの!」
藤虎が蕩けるような笑顔で、むき出しになった力哉の太ももを撫でる。豚肉の脂を舐め取るように力弥の唇に舌を這わせると、力弥は甘い吐息をこぼしながらも「ちゃ、ちゃんとご飯、食べよ」とつぶやいた。
「そうだね。ご飯は冷めないうちに美味しく食べなくちゃ、だよね。…食べ終わったら、ベッドでごろごろしよ?」
「ごろごろ、するだけだからね。ほんとに。」
藤虎は久しぶりに憂いのない力弥の笑顔を堪能して、平穏で平和な昼下がりの幸せをそっとかみしめた。
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