逢う魔時

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繁からのメッセージは、ほぼ毎日のように力弥に届いていた。といっても一時のしつこさは鳴りを潜め、一言、二言の手短なメッセージだ。「今日食った昼飯。出汁がうまかった」というメッセージと共にさぬきうどんの写真とその店の情報が送られた日は、藤虎と食べ歩きに出かけていた頃が懐かしくなり、繁のことが少しだけうらやましくなった。「残業中でまだ帰れない。今、コンビニから仕事に戻るとこ」そんな言葉と一緒に高層ビル街を下から見上げる写真が届くこともある。そんな何でもないメッセージのやり取りの中で、力弥はマンションの外に広がる世界に想いを馳せた。一方の繁は、そこに家で自分の帰りを待つ恋人を思い描いていた。 夜空を背景に燦然とそびえ立つビルの写真に、力弥が何となく「体に気を付けて、仕事がんばって」とメッセージを送った翌日、繁から「今度の週末、立川くんの家のそばでいいからコーヒーでも一緒に飲もう」と誘われた。「少し、息抜きが必要なんじゃない?」
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