逢う魔時

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食事や飲みと違って、コーヒー一杯ならば二、三十分しかかからない。とにかく、外の空気が吸いたい。少しの時間だけでもいい。自分の足で家を出て、カフェで一休みして、近所のスーパーで買い物でもして…それだけでもいい。 藤虎は優しい。必要なものをすべて、惜しみなく与えてくれる。安全な家。おいしい食事。それに何より、甘やかな愛情。この部屋で藤虎を待っていれば、力弥は父親の影を心配せずに済む。藤虎は、部屋にいる時もいない時も、自分をあたたかく包み込むようにして守ってくれている。実際、あれから二カ月近く経ったが、父親からの接触はない。自分が行方をくらませたことで、きっと父親は自分に連絡する術を失ったのだ。もう少し、もう少ししたらきっと仕事も再開できるだろう。 デュマ大使の食事会の依頼は、二度ほど断ってしまった。一度目は体調不良を理由にしたが、つい先日、二度目の依頼の電話を受けた時はさすがに同じ理由を使えず、ストーカー的な人物に接触されて仕事を休んでいる、と打ち明けた。
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