逢う魔時

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「そんなことが…リッキー。できれば力になりたいけれど、僕たちは外交特権で守られている分、君たちに手を貸すことも難しいんだ。ここがフランスなら、君に力を貸すよう警察にどれだけでも口添えができるんだけどね…。早く、安全に解決されることを心から祈っているよ。安全が確保されたら、また是非、僕と家族においしいリヨン料理を食べさせてね。僕も妻も君の料理を食べないでいると、もうそろそろ飢えてしまいそうだよ。」 大使は最後に、明るい声でそう言った。料理人冥利に尽きる言葉だ。大切なお客様である大使にそう言ってもらえて、力弥の胸は震えた。大使のその言葉が今の自分にとってどれだけ励みになるか、それを伝えて電話を切った。早く、仕事に復帰したい。そんな想いが強くなった。力弥には、父親に怯えながら家で藤虎の帰りを待ち続けることが、もうできなかった。 知人が週末に最寄駅まで来るから、駅前のカフェでコーヒーを一杯飲んできたい、という力弥の申し出に、藤虎は当然のように難色を示した。藤虎の脅しが効きすぎたのか、家に居ながらいつもどこか不安げな力弥に、あの忌まわしいメモが郵便受けに入っていたことを教えることはできなかった。
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