零れる想い

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「力弥さんって、どんな女がタイプなの?」 「タイプねぇ…、わかんない。好きになった人がタイプ、みたいな?」 相変わらず、つかみどころがねえなあ、と藤虎は少しだけ気を落とす。 (二年もつるんでるのに、俺は力弥さんのことを何も知らない。力弥さんの過去…これまでの恋愛のことも、家族のことも、学生時代のことも。フランスにいた頃の話も、あまりしてもらえない。俺と会う前のことは、何を聞いてもはぐらかされてばかりだ。) グラスの中に一滴、また一滴、と力弥への恋情が溜まっていく。二年を経て、その想いはグラスから溢れ出さんばかりになっていた。 藤虎は先日、スマホのアプリを整理していてふと思いついたことを、実行に移すべきか逡巡している。フランスに居た頃に使っていたものの、日本では使うことがなくなってしまったメッセージアプリ。そこには、リヨンのパン屋で半年ほど修業していた頃にバーで知り合った男の連絡先が入っている。市内の有名ビストロで働く料理人で、日本人の有能なシェフが働いていたことがある、と言っていた。 (もう二年以上前になるのか。俺のこと、覚えてるかな。) そう思いながら、意を決してアプリを立ち上げる。 “ジャン、元気?フジだよ。”
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