逢う魔時

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ガンメタルカラーのクーペを操る治樹が、慣れたハンドリングでカーブを抜けていく。フロントガラスに広がる若葉が、緑のグラデーションに木漏れ日を散りばめながら軽やかに流れ去る。 「で、お前の彼氏は友達の入籍を祝う食事会に俺が連れてくことに嫉妬して抱きつぶすような、重い男ってわけか。」 細身のブラックスーツに身を包んだ力弥は気だるげに窓の外を眺めたまま、つぶやく。 「…カタジケナイ。」 「ぶはっ。ひでー声だな。がっさがさ。いや、それにしてもあんなに威嚇されるとは思わなかったわ。」 今朝、力弥を迎えに行った時に、エレベーターなどない団地の外階段を、力弥をエスコートするように下りてきた藤虎を見た。 (うお、隆平よりデカいかも。それにしても、力弥は結構メンクイだよなあ。) ゆっくりとした足取りでやってくる二人をぼんやりと眺める。運転席から出て車体に背中を預けながら力弥に「おはよ」と声を掛けると、藤虎はこれ見よがしに力弥の耳元、実際には耳の裏のあたりに唇を寄せ何事かをささやいた。真っ赤になって目を潤ませる力弥と、その横で刺すような目線をよこす藤虎を見て「ったく、威嚇するくらいなら俺の前でそんな顔をさせるなよ」と思わずぼやく。
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