逢う魔時

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京都で修行したという板前が供する懐石料理の繊細な季節感を堪能しつつ、思い出話に花を咲かせる。当然、治樹の父親である芳樹のことも話題に上った。そもそも、元々知り合いだった二人の父親と芳樹が接点を持ったきっかけが、低栄養で倒れた力弥の入院騒動だった。祝いの席だから、という遠慮も特になく、ごく自然と故人をしのぶ会話が続く。一年前なら、力弥は心穏やかにこの場にいられなかっただろう。今は、寂しさと愛おしさを感じながらも、ここにいる皆と共に冥福を祈り、想いを馳せることができる。こぢんまりとした庭には、クリーム色のハナミズキがかすかに揺れていた。 料亭を出たところで、弁護士をしている巧の父親が力弥に話しかける。 「元気そうでよかったよ。」 「ありがとうございます。おかげさまで、東京で何とかやってます。祖母が亡くなった時は、残された遺産の管理をしてくださってありがとうございました。あの時、渡辺さんにお金の管理をいろいろと助けていただいたおかげで、無事に渡仏できたんだなあと。改めて、お礼が言いたくて…。」 「いやいや、お安いご用だよ。お金が必要になったら、ステートメントが来ている信託銀行に自分で連絡すれば大丈夫だからね。…ところで、他でもないんだけど…。」
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