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懇意にしている画廊オーナーの食事会にいそいそと出向いた父親を迎えに行った黒沢繁は、玄関先で客に挨拶している男を見て息を呑んだ。
(あいつ、フランスから帰って来たときに飛行機に乗ってた男だ。)
あれから数年。別に思い出したこともなかった男だったが、顔を見た瞬間にあの時のことが脳裏に鮮明に浮かぶ。
(へえ。ますます色っぽくなって。いい顔してんじゃねえか。)
上機嫌で出てきた父親を後部座席に乗せ、最寄駅のロータリーへ回る。
「おいおい、繁。どうしたんだ急に。」
「わりい。俺、急用ができたから親父が運転して帰ってよ。」
「そんなあ。僕、お腹がいっぱいで休みたかったのに。」
「飯、そんなに美味かったか。」
「ああ、絶品、絶品!今日はオーナーの意向に合わせて、モンドリアンの抽象画みたいに食材がブロック状に並んだ料理を食べさせてもらってね。それが…」
「あのシェフ、何て名前なの?」
「え?えーっと」父親は名刺入れの中をごそごそと漁ると、中から一枚のカードを取り出した。
「たちかわ、りきや、だって。」
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