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繁が運転席から腕を伸ばし、そのカードをかっさらう。
「あ、繁。ひどいよ。お行儀が悪いなあ。」
カードにはフルネームと、メールアドレスしか書かれていなかった。
(ちっ。電話番号はなし、か。ま、いいや。これから聞けば。)
「俺の友達の立川ってやつに似ててさ。弟かもしれないから、ちょっと聞いてくる。じゃ、そういうわけで、あとよろしく。」
「えー。もう、繁はわがままなんだから。お前は一応、社長秘書なんだぞ。」
「わかってまーす。それでは失礼しまーす。」
我が父ながら、浪費が趣味のぼんくら社長だ。買いあさる絵だって、この車だって、見栄を張るための道具に過ぎない。こんな役立たずに傅いてたまるか。
繁は心の中で毒つく。父親の会社で営業部に入ったものの成績は一向に上がらず、三十を前に部内の女性関係で問題行動が多すぎると営業部長にさじを投げられて社長秘書に何とか収まった自分を棚に上げ、繁は後部座席からごそごそと降りてきた父親を一瞥すると、元来た道を歩いて戻っていった。
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