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ぼろが出ること必至のフランス時代の話は早々に避け、他愛ない世間話の合間に、力弥の今の生活を探るような質問を織り込んでいく。グランデサイズのソイラテをちびちびと飲んで粘ってみたが、力弥の警戒心は解けそうにない。というかそもそも、ほぼ常に無表情に近く、感情を読み取ることができなかった。
(人形みたいで…壊したくなる。ああ、もっと近くに入り込めば、もう少し違う表情を見せてくれるんだろうな。)
ほの暗い闇が繁の双眸を一瞬覆ったが、所在なげにエスプレッソを飲み干す力弥は気づかなかった。
「今日はこれからどうするの?」
「これがあるから、家に帰ります」力弥はそう言って自分の荷物を指差した。
「そっか。夕食に誘おうと思ったけど、仕方ないね。ねえねえ、せっかく会えたんだから連絡先を教えてよ。」
半ば無理やりメッセージアプリのIDを交換し、二つの路線が乗り入れている駅で別れる。軽く頭を下げて地下へと降りていった力弥に手を上げた繁は、数呼吸置いて踵を返すとその後を追った。
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