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馬車が人通りの少ない路地で止まり、扉が開く。
「本当にここで降りるの?」
「僕は一般市民だよ。フェイと居たら皆に怪しまれるだろう?学校では見ず知らずの他人だ。くれぐれも話しかけないように。」
「うー...でもぉ...。」
「その方が護衛しやすいから。大丈夫、僕は君の事をずっと視ているから。」
「うーん……分かった...。」
寂しそうに項垂れ、落ち込むフェイ。
それを紛らわせるように優しく頭を撫でる。
「人目のない所なら会うさ。君は僕のこの世で1番大事な人なんだから。」
「分かった!!!」
会えると聞いて犬の耳がぴょんっと立ったように喜んでにっこり笑った。
手を軽く振ってから扉を締める。
「……護衛、頼んだぞ。まさか枢機卿が学校へ行くなんて前代未聞なんだからな。何かあれば首どころか命はないぞ。」
「僕が今までそのような気持ちで護衛していたと?全ての障害は排除し、守ってきたから僕が護衛に選ばれたんだ。それに僕は国家を揺るがす魔導士、その名に恥じぬ護衛はしているしこれからもそれは変わりはない。」
「その言葉を聞いて安心したよ。頼むよ、『青い血』」
ピシャッと馬を叩いて馬車を動かす。
それを確認しながら呟く。
「知らない人の名前で呼ばれても困る。」
路地を出る方へ歩き、学校へ向かう道へ戻る。
数多くの生徒が学園へ向かっている。
一般市民のふりをして護衛するのはいつも通りのこと。
いつも通りやるだけ、と思いながら一般市民の面をしながら学園へ向かう。
校門に着くとたくさんの生徒と馬車で賑わっていた。
「新入生はクラス表を確認してから講堂へ向かうように!」
「分からない人は左腕にタグをつけた在校生に聞いて下さい!」
「そこ!押さないでくださーい!」
「伯爵以上の新入生はこちらの順番で並んでください!」
在校生が案内をしているようだ。
辺りは騒々しく、案内をするにも大変そうに感じる。
一般の列に並び、大人しく順番に並んでいると辺りはさらに騒がしくなった。
「あれってもしかして...!?」
「噂には聞いていたけど本当だったんだ!」
「なんて時に入学したんだ...。」
「お美しい方...。」
「なんて美しい方だ...。」
輝くような金色の髪に吸い込まれそうな碧い瞳。
微笑みを絶やさないその人に誰もが見蕩れ、頬を赤らめる。
「ヴィシュタリア枢機卿猊下、お待ちしておりました。クラスはSクラスです。」
「分かりました。それと、これからは後輩となるのでそのような敬語は相応しくありません。校則どおり学校内ではヴィシュタリアさんとお呼びください。」
「心の広い方で助かります。そう呼ばせて頂きます。」
「では講堂へ案内をお願いします。」
彼は群衆へ振り返り、ニコリと微笑んで手を振る。
それの眩しさに気絶してしまう人が多数居たことに、彼は知らず歩を進めるのだった。
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