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授業はそのあとも、どんどん進んいった。最初だからか、もとから知っていることも多かったが、さらに掘り下げた話まで知ることが出来た。でも――。
「やっぱ俺、世界史よりも化学のほうが好きだな。」
「出たよ、秋之の化学バカ」
帰り道。独り言のつもりだったが、隣を歩いていた幹人には聞こえていたらようだ。
「化学が好きで何が悪い」
「いや、悪いとは言ってないけどさ。これからの時代は魔法だよ、魔法。今まで進んでいなかった化学の分野が、魔法のおかげでどんどん進んでいるって、僕のひいばあちゃんが言ってたよ。ただの人間でも魔法界に行けば、魔法が使えるようになるんだろ?」
やはり、時代は魔法なのだろうか。三年前に、魔法界と人間の行き来の規制が緩和されてから、人間と魔法使いの交流が盛んになり、文化や技術の教え合い状態だ。
「そうだな。幹人なら、魔法界に行けるんじゃないか?」
「え、何で?」
「なんとなくだけど、そう思うんだ」
上手く言葉にはできないが、幹人からは、そういう雰囲気が感じられる。ハーフでもないのにグレーの瞳で、日本人らしさの少ない顔立ちをしていることから、魔法使いの血を引いているのではないかと、俺は勝手に思っている。
「それならさ、秋之も行けるよ。化学を理由にして留学でも頼んでみたら?」
留学のことは俺も考えたことはある。しかし、両親に相談したことはない。俺に、それほどの素質があるかどうか分らないからだ。留学したのに、何にも成果を得られなかった時のことを考えると、なかなか言い出すことが出来ない。それに、魔法使いだらけの場所で一人暮らしをすることにも、いくばくかの不安と、怖さがある。
「……幹人は、俺に留学するほどの価値があると思うか?」
「あるよ。もっと自信を持てって」
そんな軽く笑い飛ばすことなのか、と思ったが、ただ単に、俺が心配し過ぎているのかもしれない、とも思った。幹人は、俺の背中をはたいて、ただ豪快に笑っていた。全体的に色素に薄い幹人は、その成りに合わず、豪快で楽観的で、とにかく元気が取り柄な性格をしている。
「痛ってえな」
幹人みたいな楽観的な考え方も、たまには必要なのかもしれない。そう思いながら俺は、幹人の背中を叩き返した。不安が少しだけ溶けたような気がした。
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