定まらない心

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 身長百八十三センチメートルと大きく成長した体とは逆に、俺は小心者だ。そして、余計な心配をしてしまう事が多い。無駄に心をすり減らしても、大概のことは杞憂で終わってしまうのだ。留学についても、ただの杞憂で終わるのだろうか。  自室のベッドの上で大の字になり、天井をぼーっと眺めながら考え事に耽る。それが、俺の日課だ。こうやっていると、たまに面白そうな化学の研究テーマを考えつくこともある。  今日は、先生から貰った募集要項をただただ眺めていた。思考は完全に堂々巡りをしているにも関わらず、その行動を止めることができないでいる。 「……化学のコンテストで一位を取ったら、相談してみるかな……」 でも、果たして俺なんかが一位を取れるのか。俺は井の中の蛙で、周りの圧倒的な才能に再起不能なほどに打ちのめされて終わるだけなのではないか。この二つの考えがひたすらぐるぐると頭を蝕む。 「駄目だ」 俺は諦めて、起き上った。長考のせいかいきなり起き上ったせいか、頭がくらくらする。こういう時は偉人の言葉に頼るしかない。俺は研究に行き詰った時に、偉人の言葉を頼る。化学分野に限らず、あらゆる分野の人の名言をそろえてある。  自分の心は、もう半ば、決まっているのだろう。あとは、踏み出すだけなのだ。でも、その一歩を踏み出せずにいる。偉人の言葉であれば、俺は簡単に背中を押されてしまう。案外、単純な性格と言えるだろう。   世界には、きみ以外には誰も歩むことのできない唯一の道がある。 その道はどこに行き着くのか、と問うてはならない。 ひたすら進め。 ふと、目が留まったのはニーチェの言葉だった。 俺はもう、魔法界でも宇宙でも、どこにでも行けるような気がした。
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