01.毒殺未遂

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 世間は残酷だからな――呟いて、机の上にあったカップの中身を捨てる。凶器にならないよう、金属やガラスなど割れる素材の食器は使わない。  だが、中から出てきたのは、金属のピンだった。カップの中に差し込んでいたのだろう、ネクタイピンを指先で弄んでからコウキへ差し出す。 「さっきの奴から借りた。返してやってくれ」  コウキが手を伸ばして受け取ったピンは、銀色の輝きが鈍っている。経年劣化による硫化はもちろんだが、明らかに薬品による化学変化が見られた。 「それと、毒を盛るならもっと上手に頼むよ」  優しげにすら聞こえる声で告げると、すべてに興味を失ったようにベッドに横たわる。鉄格子の外に立つコウキや看守の存在も、今の彼の意識には残っていないらしい。  気まぐれで自分勝手と書かれていたロビンの性格の記述を思い浮べながら、今日はもうダメだろうとコウキも諦めて踵を返した。 「……また来る」  ひらひらと手を振って挨拶するロビンは無言だった。
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