チートな世界の片隅で

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イリスが暴走を始めると多様な出来事が起きるのだ。その原因が種力と呼ばれる種術の起動源だ。補充は血液で行われる。しかし、ユーリの血液だけで収まるわけもなく、適任者の血液を膨大に使うか、監獄島に住んでいる神様の力を借りる他にイリスの暴走を止める手だてはなかった。 監獄島には黄髪黄眼を持った神様がいる。 彼には名前がなく、周りからは幾つものあだ名で呼ばれていた。彼自身に神様と言う自覚はないようで非常に粗野で乱暴な人物であると言われている。それも四年前にクリテイックで弟を亡くしたためだと世間では噂になっていた。 そんな彼は、警隊の隊長として生活している。部下は副隊長を含めて五人だけの弱小部隊だ。政府が肩書きだけを与えている職場である。 それでも監獄島の住民には好かれている。隊長である彼を除いては。 平穏な青空に拭紙(しきがみ)の鳥が飛んでいく。種術で作られた鳥は真っ直ぐに警隊へと飛んでいき、資料整理の真っ最中であった副隊長のスピカの頭を宿り木にした。くわえてきた筒を机に落として羽を繕う。 スピカは筒の中から手紙を引き抜き、内容を確かめると直ぐに紙を種術で燃やした。 「スピカ副」 同じく資料を整理していた老人が呆れたようにそれを指摘する。 「燃やしました。督促状です」 スピカは直ぐに拭紙に筒を持たせて帰還させる。 「隊長殿の、ですかな。まあ、処分するに越したことは在りませんが」 「知りません。僕の借金ではありません」 スピカは項垂れながらも資料の整理をやめることはなかった。
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