チートな世界の片隅で

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「博士は不在ですわ。スピカ様」 メイドのカリンがマナを警戒しつつ口を開いた。 「二日でいいんです。マナさんを泊めて頂けませんか?」 「スピカ様の頼みでしたら何時でも受け付けますわよ。でも、神官の方ですわよね」 「お願いします。カリンさん」 「もう、スピカ様ったら、そんなに見詰められたら溶けてしまいますわ」 カリンがパタパタ手を振って、マナを招き入れた。 スピカはカリンにマナを預けると急ぐようにバル山の展望台を目指した。展望台までは馬で行ける。ユーリ邸からは四十分掛かるが、スピカはそこに彼がいることを知っている。 神様と呼ばれるだけで無自覚な青年。背中まで伸びた黄髪を風に揺らして展望台の縁に腰掛けて居る。 馬を飛ばして彼のところへやって来ると、案の定不機嫌な表情で振り返ってくる。 夕暮れ時の日差しはゆっくり翳りを運んでくる。 「隊長、面会です」 スピカは単刀直入に告げた。 「なに、殺してほしいの?」 「会ってお話を聞いて貰いたいんです」 「今回はどんなやつ?」 「神官の娘さんです。名前はマナ・フィル」 「ここまでよく生きてこれたな?」 「会って頂けますか?」 「絶望させるだけだろ」 「そんなことありません」 「まあ、気が向いたらな」 「いえ、会ってください」 「話を聞き出してから来い」 不毛だとスピカが思うことも知らないのだろう。彼は不機嫌な言葉を並べるだけだった。 「なにか嫌な予感がするんですよね」
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