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下弦の月が空に上る頃、リーバーム駅に騒々しさが割り込んだ。
「いたぞ、蛇と器だ!」
神官の声が迫っていた。
マナとイブは神官領域から大罪を犯して逃げてきた。
蛇とは悪魔のことで、器とは神の許婚候補をさす。
二人は神官の掟を破って、子供を作った。
婚姻前に成す子供は、無音種師が生まれてくる。無音とは意思疏通の困難な人間のことを指した。神官では無音種師を忌み嫌う。政府では最高位種師として扱いが天と地のさほどある。
二人はその噂を聞き付けて、監獄島まで出向くことにしたのだが、神官組織に見付かってしまったのだ。
マナだけが貨物列車に乗って、船を乗り継いで監獄島にたどり着いたのだ。
マナは話を終えて腹に手を添えた。
「私はこの子を生みたいんです」
はっきりとした口調で言い切ったマナの眼差しは澄んでいた。
スピカは警隊の仕事部屋に珍しく姿を見せた隊長にその事を告げた。
隊長は面倒そうに思案する。
「副の言うとおり、嫌な予感がする」
「初歩的な手続きで、強制送還が妥当と通達が来ています。でも──隊長」
「なんだよ」
「強制送還の付き添いに隊長も含まれています」
隊長の表情が一瞬だけ動きを見せた。
「政府が俺を外に出す、だって?」
「イリスの決定だそうです」
イリスは管理業務のほかに、護送や身辺警護などの役割分担を引き受けることがある。適任者を選ぶのだ。
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