心は楔、血は柵

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 暦の上では、春は立春から始まる。しかし我々が春を実感するのはもっと遅く、春一番が吹くのは下旬を待たねばならない。それでも体感としては春の足音が聞こえる晩冬と言ったところだ。春と言えば桜の舞う三月を思い浮かべる者も多いだろう。  低地でそれなのだ。高地ー山ではより冬が長く感じられた。少女が車の外の森に目を向ければ、木の根元ー木陰になっている部分には残雪が見受けられる。もう三月も下旬に差し掛かろうと言うのに、だ。この山よりは遥かに温暖な土地で生まれ育った少女にとっては異様な光景に映ったが、じきに慣れる事になろう。何せこの少女はこの道の先にある村に住む事になっているのだから。  これから住む事になっている土地を少女はよく知らない。これまでの道程は街を抜ければ林、森、山ー恐らく都会では無いだろう。ともすれば田舎の中でもとびっきりの田舎かもしれない。少女は決して都会の出身ではないが、そんな田舎の出身でもない。電気が通っているのか、そんな事まで心配してしまっていた。     
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