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髪の色をとっても、父を名乗る男の物は真っ黒でストレートのようであるが、愛理のものは茶色がかっていて波打っている。変えようと思えば変えられる物だが、目の前の男がそう自分の容貌に気にかけているとも思えない。
娘と父には到底親子とは思えぬ程の乖離があり、拭う事の出来ない違和感を残す事になる。
「どれ。一つ、私達の証を見せよう」
そう言って自称父親が取り出したのは何の変哲も無い石であった。そう、石。愛理には全く覚えの無い代物であり、どうしてこのような物を見せたのか、微塵も理解出来ない。
ーいや、異常はあった。この石は先程まで何も持っていなかったはずの掌に忽然と現れたのだ。手品かと少女は思った。そう思うのが正常であり、そうでしかあり得ない。手品でなければ魔法だ。そんなものが存在する訳がない。ー常識的に考えれば、間違い無く。ただし、この春に小学校を卒業する少女は、自らの世界がその常識から逸脱しており、そのような神秘が存在している可能性が否定出来ない事を既に知っていた。そもそも、彼女自身もそちら側の生き物だ。
「私もこれを使う機会には中々恵まれないのでね。失敗しない事を祈るよ」
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