心は楔、血は柵

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 自嘲気味に笑った男は愛理に聞き取れない言語を唱える。聞き取れないのは音量の問題では無い。彼女の知っている言語ではないし、彼女が意味をなさ無い言葉としても聞き取る事が出来ない。遠い国の言葉を聞いた時のように「あい、うあんと…」と近しい発音の言葉にする事すら愛理には不可能である。 そんな事を考えている暇は無かっただろう。男が呪文(仮)を唱えると、掌中にある石が瞬く間に発光し目を開く事が困難な状況になる。眩しさのあまり、少女は思わず堅く瞼を閉じた。  長いような短いような時間ー具体的に言うと三十秒くらい経つまで、愛理は瞼を上げられなかった。瞼越しでも分かる程の光が消え、視界に映ったのは先程までいた場所ー少女の住むアパートの一室では無かった。フローリングだった足元は高級な匂いのする畳が敷き詰められている。殺風景な白い壁紙は味わい深い茶色の土壁に、天井は煤けたかのように黒ずんでいたのに、今は太く立派な梁の奥に赤みがかった板が見える。明らかに移動しているが、そんなはずが無い。両者共に、一歩も動いていないのだから。 「さて、これで私と君の血が繋がっていると信じてもらえるかな?」  そう尋ねる男を見た時、少女はその言葉に頷かざるを得なかった。瞬く間に移動したのか、空間の方をこちらに持ってきたのか。愛理には判断が付かないが、いずれにせよとんでもない異常である。少女はその異常をもってうぐ理解した訳では無くー補強材料の一つではあるがー男の背後に控えた者達の姿こそが理由であった。     
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