居眠り電車

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 人間がよく眠る場所ランキングを作ったとして、当然ながら家のベッドや布団はトップに入るだろう。学生であれば教室と答える不真面目な者もいるかもしれない。公園のベンチと答えるアウトドア派もいるだろう。  僕ならば真っ先に電車の中、と答える。通勤通学時間帯に電車の座席に座る人の多くはだいたい寝ているし、金曜日の終電は赤い顔のオジサン達が鼾をかいて気持ちよさそうに眠っている。前後左右を人に囲まれ、パーソナルスペースなどという概念の全くないこの電車という空間でどうしてこれだけ寝ている人が多いのか、本当に疑問である。しかし、僕もまた人のことは言えないのだ。  花の金曜日の平和な午後、会社にシステムの不具合報告の電話が鳴り響いた。僕の勤め先は各社のシステム基盤の保守、運営やヘルプデスクを引き受けている会社である。普段は神経をすり減らすようなことはなく、パソコン音痴なオジサンの愚痴を聞くくらいのものなのだが、こういう不具合が出ると修羅場と化す。原因追求はもちろんのこと、システムを利用している顧客への対応も必要となる。システム不具合のため休みますとできないのが現代の世知辛いところであって、どこからアウトでどこまでならばセーフなのか、必死の声色で電話してくる事務職の皆さまの相手も必要である。  結局、事態が収束したのは真夜中であり、とうに終電の時間は過ぎていた。仕方なしにファミレスで夜を明かし、早朝の電車で帰路に着いた。土曜の始発など車両の中はガラガラである。座席に座った瞬間、睡魔が訪れた。電車のドアの閉じる音すら覚えていないほどの速さで、寝落ちしてしまったのである。
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