0人が本棚に入れています
本棚に追加
駅前のロータリーを見渡す。郊外の閑散とした雰囲気はあるものの、ぽつぽつと店の看板が出ている。一番近い場所にある焼きたてパンの店を目指して歩く。客席は少なく、本業のパン屋の延長でイートインスペースをつくったような小さな店だ。コーヒーとトーストを注文し、傍に置いてあった土浦市の観光案内のパンフレットを眺める。
僕はかなりの出不精で、仕事のない日は1日中ゲームをしているか漫画を読むかのどちらかである。趣味も特になく、友人も少ないので遊びの予定が入ることはめったにない。旅行もたまに行くが、だいたいは誘われたから行くのであって、自分から積極的に企画したりはしない。ましてや最寄り駅から40分ほどの土浦市など旅行するほどの距離でもない。おそらく一生立ち寄ることはなかっただろう。
差し出されたコーヒーの香りが食欲をそそる。甘党の僕は、普段はコーヒーにはミルクや砂糖を入れるのだが、おそらく豆から挽き立てであろうこのコーヒーには何も入れたくない。トーストは焼きたてで、バターを乗せるとすぐに溶け出してしまうほどである。かじってみると熱かったが、もちもちした食感はスーパーで普段買っているトーストでは味わえないものであった。
観光案内のパンフレットを見る。あの有名な霞ヶ浦がここから歩いていける距離にあるようだ。近くに美味しい川魚を扱った料亭もあるようである。牛久市も近い。バスで行ける範囲である。牛久大仏でも見てみようか。何かご利益があるかもしれない。
近いようで、滅多に来ない町。柔らかなトーストを口の中で楽しみながら、今日一日の観光ツアーを思い描く。
目覚めた先の、見知らぬ町。縁がなかった場所を繋げてくれた電車の眠りにちょっとだけ感謝しながら、コーヒーを啜る。
最初のコメントを投稿しよう!