Prologue. 砂の記憶

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「いたい! ごめんなさい!」  反射的に謝罪が飛び出してきましたが、人ならざる怪物には通じません。母は、小さな私の腕を持って勢いよく引きずり倒しました。そして、幼子の胸倉を掴みあげると言いました。 「"お仕置き"だな」  "お仕置き"とは、私が粗相をしでかしたときに執行される、痛みを伴う罰のことです。怪物は私をしつけるとき、いつも"お仕置き"を宣言して行うのが決まっていました。言われてしまったが最後、もう、どうしようもありません。私もまた、瞼を閉じて夢かうつつかに蓋をするしかありませんでした。 「ぎゃん!」  暗闇の向こうで、コンクリートに打ちつけられる衝撃と、いくつかの金属音。そして、小さな私の悲鳴が響きました。  再び目を開けると、両手を降ろした母が現れました。ふー、ふー、と鼻息を吹かして、小さな私を睨みつけています。母の視線を追うと、その足元で、小さな私が両手で頭を抱えたまま、転がっていました。よほど痛かったのでしょう、指の隙間からは充血した顔面が見え隠れしています。泣き声すら出せません。服のポケットからはお気に入りのガマ口財布が飛び出て、チャックが壊れたせいで小銭が散乱していました。
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