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いきなりの出来事に、周囲の人々は硬直。静まり返った売り場で、息を整えた母は言いました。
「……もう二度と、ここには来ないから」
立ち尽くす私と、痛みに耐える小さな私を置いて、母は踵を返しました。空っぽのカートを押して、小さな私を起こしもせずに、売り場から去っていきます。
怪物だった母がいなくなると、止められていた時間が動き出したように、人々は歩き始めました。大人も、子どもも、私たちをいないものと決めて通り過ぎていくのです。
『ごめんなさい』
私は、顔の見えない小さな私に懺悔しました。彼女がまだ幼いから、母も多少の我が儘は許してくれるのではないかと高をくくっていました。例え怒ったとしても、私にするような"お仕置き"まではしないだろうと楽観視していました。でも、悲劇は起きてしまいました。原因は明らかに、小さな私を止めなかった自分にあります。
『ごめんなさい』
私はもう一度謝りますが、許してくれる訳がないと考えているからか、声が上手く出せません。
私の声が聞こえたからではないでしょうが、やがて小さな私は片手で頭を支えながら起き上がりました。辺りは数分前の状態と変わりありませんが、私たちの存在を誰も認めようとしていないところだけが、彼女にも多分、見て取れていました。
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