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『……おかーさんは?』
時折鼻をすすりつつ、小さな私は私に尋ねてきました。
『店の外に出て行ったよ』
私がそう答えると、小さな私は『ふうん』とだけ言って、うつむいてしまいました。まだ、頭が痛むだろうかと彼女の顔を窺うと、私ははっとしました。
小さな私の瞳が、水中に巻き上がった泥のようにひどく淀んでいました。焦点の定まらない瞳は私を捉えることなく、ここにはない何かを見つめ続けています。
……いや、"何か"という言葉は間違いです。小さな私だった、今の私には分かる。
彼女は、おそらく母のことを考えています。思えば、私は物心ついたときから、母と生活していくためにはどうしたら良いかを考えながら過ごしていたようです。なぜ母が豹変し、私に"お仕置き"をするのか。どうしたら母が怪物にならず、平穏な日々を過ごせるのか。血の繋がった、母と生きていく。母の性格を受けいれるために行った努力の根源は、きっと親子の間にしかない"絆" にあるのでしょう。
小さな私もまた、今の私と同様です。未熟な思考回路で、必死に答えを探している。彼女の瞳が、それを如実に語っています。
何と言っても、一週間前に鏡越しで見た瞳にそっくりなのですから。
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