第1章 未だ痛みは消えず。

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 五日間の中間テストを終えたことで、僕は久しぶりにイツキ先輩に会えると思っていた。イツキ先輩というのは書道同好会の三年生で、見た目は少し陰気さがあって、僕と同じくらい大人しい人だ。僕もひょんなことから書道同好会に参加するようになり、墨を擦っては書いての日々を過ごしていた。  イツキ先輩はほぼ毎日、放課後はもちろん、昼休みでも書道室で習字をしていた。僕は入学当初から友達ができなかったから、時間が空くとすぐに書道室へ赴き、イツキ先輩と話をしていた。先輩は声が細くも、どこか他人に流されない意志の強さがあった。かと思えば、なにかしらアクシデントがあるとすぐにおろおろする。年上だけど、放っておけない感じがしていた。  中間、期末テストの期間中は、全ての部活動が停止される。しかし、イツキ先輩はこっそりと合鍵を作っていた。テストが終わったら書道室に来る、と先輩に約束をした僕は、舞い上がっていた。午後からずっとイツキ先輩と一緒にいられる。その言葉を頭に描くことすら気恥ずかしい。できれば心の中にしまっておきたい感情ではあるけど、最近はしまい切れずに外へ漏れてしまうことがある。テスト期間の数日以内で、僕は先輩にうっかり告白してしまうんじゃないだろうか。制御できなくなりつつある感情に多少のおそれを抱くも、僕はいつもよりずっと軽い足取りで、テスト一日目の終了後に書道室を訪れた。
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