第1章 未だ痛みは消えず。

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 しかし、イツキ先輩は二時間待ってもやって来なかった。今日は用事でもあったのかもしれない。と思って次の日の同じ時間に来てみたものの、やはり先輩は来なかった。交換したばかりの電話番号にかけてみても、応答はない。勉強で忙しいんだろうか。気落ちした状態で受けるテストは、結果を待たずとも散々な点数であるのは容易に想像できた。  そんな経緯から、僕は放課後のSHLが終わるとすぐに書道室へ行った。イツキ先輩の在室を根拠もなく信じていた僕は、墨の拭い取られた跡が残るドアを引くと真っ先にイツキ先輩の定位置を見た。  会員一人につき一つずつ配られた座布団。イツキ先輩が座る黄色の座布団は、中間テスト前と同じ、しわがきっちり伸ばされたままだった。  イツキ先輩がいなければ、同好会に長居する理由はあまりなかった。夕刻のチャイムが鳴り次第、素早く身支度を整えて帰路についた。同好会の会長曰く、イツキ先輩は風邪で寝込んでいると担任の教師から聞いたらしい。  しばらくの逡巡を経て、僕はスマホから先輩に電話を掛けた。すると、着信音が前方から聞こえてきた。今でも、夕日を見る度に脳裏でリフレインしてしまう、恐怖のメロディ。
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