第1章 未だ痛みは消えず。

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 それでも、知っている道を逃げ続けていれば自然と学校に着くもので。当日三度目の校門を抜けると、僕は職員玄関に駆け込んだ。鍵は開いている。だが、大人の姿はどこにもなかった。どうすれば良いのか。絶望に瀕した僕の頭上で、声がした。  頭上には、吹き抜けの廊下でクラスメートのナナが顔を覗かせていた。明るくて人望もある、僕の正反対のような人。ただし、ナナは一点だけ、他人と明らかに違う側面を持っていることを僕は知っている。それは、ナナが怱々町の怪異譚に異常に詳しいことだ。彼女は僕と二人きりになると、幾度となく忠告をしてきた。 『近い内、あなたは"嗤い女"に喰い殺される』  日向に属している彼女だとは思えないほどかけ離れた言動と雰囲気に、正直面食らってしまった訳だけど、念のためだとつかまされたお守りに救われたことで、僕はわらにもすがる思いを彼女に抱いた。  職員玄関の前でまごつく嗤い女を背に、僕はナナの元へ階段を駆け上がった。  三階の廊下で待ち受けていたナナは、僕に色々なことを教えてくれた。ナナは週に一度か二度の頻度で、とある妖怪を探すために町を徘徊していること。妖怪への防衛術として、お札を作っていること。嗤い女が校舎に入れないのは、そのお札の効果だということ。しかし、僕とナナは現状、嗤い女が作り出した異空間に閉じ込められているため、いつまで経っても脅威は過ぎ去らないこと。そして、僕らが助かる方法はただひとつ。  嗤い女の正体であるイツキ先輩を、僕の手で無力化させることだった。
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