Prologue. 砂の記憶

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 しばらく揺らいでいると、目の前の砂が手で押すようにかき分けられ、赤い光が差し込みました。あまりの眩しさに、目を強くつぶりましたが、光に慣れてくると無意識にも、目は開かれました。  視界にすぐ写ったのは、真っ赤な夕暮れ。周囲にはアスファルトが敷かれており、何台もの車が朱色に染まっていました。右には街路樹が並び、ひぐらしが合唱しています。いつの間にか左手には誰かの大きな手が握られていて、私は見上げました。 「ほら、行くよ」  声をかけ、見下ろすのは私の母でした。一つ括りにした黒髪混じりの金髪にも、夕日が移っています。あれ、こんな顔だったかな。私は違和感を覚えましたが、すぐに合点がいきました。あぁ、これは私が小さかったころの記憶なんだ、と。  ここは駐車場で、車が通って危ないからと、母は私の手を握ってくれていたのでした。  母と一緒にどこへ行くんだろう。駐車場より向こうは黄色い砂塵に阻まれて、分かりません。 「ねぇ、どこへいくの?」  私は母に尋ねました。母は、一瞬嫌そうな顔をした後、笑顔で答えました。それは、私が幼いころによく連れて行ってもらっていた、ホームセンターでした。
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