Prologue. 砂の記憶

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 頭の中でその特徴を描くと、黄色い砂塵は透明な手で振り払われて、夕日に負けないぐらい真っ赤な看板と建物が現れました。当時読めなかった看板の文字を見て、体の内側から懐かしさがこみあげてくるのでした。 「おかーさん! きんぎょ、みていい?」  勝手に、私の口からそんな言葉が飛び出してきました。金魚、好きだったなぁ。特に銀行でもらった、金魚のイラストのついたガマ口財布がお気に入りで、出かけるときはいつも持って行ってたんだっけ。  母は私から手を離すと、出入り口に置かれていた買い物カゴとカートを出して、答えました。 「…またぁ? よく飽きないね」 「みていーい?」  急かすみたいに、私の口は言います。今の私では到底しない行為でした。母よりも自分の気持ちを優先するなんて、ろくなことになりませんから。 「良いよ。行こっか」  ですが、当時の私がまだ幼かったからでしょう。渋々と、母は了承しました。 「はやくいこ!」  母の言葉を聞くと、私の体はいても経ってもいられなくなりました。心臓がどきどきして、体中を跳ね回っているみたいでした。  だから、私の足は母を待つことなく、走り出してしまったのです。
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