Prologue. 砂の記憶

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 しかし、私はこの舞踏会の中で、ふと格別に美しい二匹の金魚を見つけました。片方はひときわ白く、もう片方はとりわけ赤い二匹は、色こそ極端でありながら、つがいのようでした。 『これが、王子様とお姫様?』  私が二匹を指差して尋ねると、小さな私は目を細めて頷きました。 『あかいのがおうじさま、しろいのがおひめさま。ずっといっしょ』  彼女がうっとりしている気持ちが、なんだかすごく分かる気がしました。二匹は壁伝いに、寄り添いながら優雅に泳いでいます。楽しい舞踏会を、静かに喜んでいるみたいに。金魚の瞳にも、どこか優しさすら感じられたのです。  羨ましい。  自然と、私は思いました。さほど大きくない水槽で、彼等は平和そうに暮らしている。理不尽な現実も、弱肉強食の世の中も、ガラスを通した幻に過ぎないと言わんばかりに、のんびりと泳いで行きている。  その様が、私には羨ましくて。  羨ましくて、たまらない――。
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