Interlude. 形の記憶

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 闇が世界を覆い尽くしても、私にはまだ、彼女の立ちすくんでいる輪郭が見えている気がして。そんな訳がない、と白い糸に触れてみれば、心臓の拍動は死んだみたいに響かなくなっていました。  彼女からの応答がなく、無事旅立ったことを悟るとやっと安堵しました。失っていた記憶も戻り、不完全たる私を補完する旅は順調に終わりへと近づいてきています。物語で言えば、伝説の剣と盾と鎧を手に入れた勇者が、身分違いの結婚を約束したお姫様が囚われている城に向かおうとしているところでしょうか。待ち受けるのは巨大なドラゴンとの対決。剣を太い喉に突き立て、姫と熱いキスをして終了、なんて結末が決まっているだけに消化試合感が拭えませんが、全てが運命だったと思うと粉々になってしまいそうだった痛みすら水のように流れていく気がするのです 。  嬉しくて、悲しい。  喜ばしくて、嘆かわしい。  相反する感情の、どちらに身を寄せれば良いのか分からずに、空を仰ぎました。  見てください。夜空みたいに、天井に光の粒が浮かんでいますよ。  誰に言ったつもりはなく、ただ空虚を埋めたくて。  ぽこぽこと泡を吐きました。
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