(1)ココロノオクソコ

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「じゃ、行こう」  クルリを向きを変え、空がスタスタと歩き出したので、慌てて真結もそれについていく。  わざわざ待っていてくれたのだろうか、とふと思った。同じクラスなので、真結が寮生であることは空も知っているはずだ。そして、椿寮へは裏門から出るのが近道だということも。  そっと空を見遣るが、ぼんやりとした表情からは何も読み取れない。  せっかくこんなに整った顔立ちをしているのに、少し勿体ないなと思う。もう少し愛想よくすれば、空の周りには人だかりができるだろうに。  そんな様子を想像し、真結は思わず笑いそうになってしまった。ここまでになると、もう空ではなくなってしまう。 「何か面白い?」  急に尋ねられ、真結はビクッと身体を震わせた。まさかこちらを気にしているとは思わず、真結はあたふたと狼狽えてしまう。 「え、いや、あの、うん……」  と訳のわからない返事をすると、空はきょとんとした顔をした。しかしすぐに気を取り直して前を向く。  細かいことは気にしないのか、全く興味がないのか、どちらにしても変に追究されなくてよかったと、真結は胸を撫で下ろした。
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