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「あの、その時計、僕の――」
「珍しいから、ちょっと見てただけだよ。いやだね、もしかしてアタシが盗もうとしたとでも言いたいのかい?」
「え、いや、そんなつもりじゃ」
不愉快そうに口角を下げたバーバラは、ノエルに懐中時計を付き返した。
「あの、鎖も返してもらえますか?」
「…………今、返そうとしてたところだよ。まったく、うるさい男だね。女に嫌われるよ?」
ぶつくさと文句を言いながら、バーバラはスカートのポケットから金の鎖を取り出した。
それを受け取り、腰に懐中時計を付け直すとノエルは辺りを見回した。
どうやら、何処かのベッドに寝ていたみたいだ。
さわり心地があまりよくない寝具が、体に掛けられている。
シーツは少し湿っていて、清潔とは言い難い。
部屋は狭く、ノエルが一人寝られるほどの大きさのベッドがその大半を占めている。
ほかには、バーバラが座る椅子と木箱を二つ積んで作った机があるだけだ。
木箱に置かれたオイルランプの光が、部屋を照らし出している。
窓にはカーテンもかかっていない。
風に吹かれて音を立てる硝子の向こうは、既に闇に包まれていた。
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