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「ああ、でもちょっと待ちなよ。……そういえば、一か月くらい前にハミルトンの様子がおかしかったことがあったよ。いつも以上に癇癪を起こして、周りに当たり散らして。ここの店主もその時に顔を殴られて右の奥歯を折られてね。いまだにあいつが店に来ると、二階に引きこもっちまうんだよ」
「その話、詳しく教えてください!」
やっとつかんだ情報に、ノエルはカウンターに手をついて立ち上がった。
「別にかまやしないけど……。そうだねぇ、あの日は――」
バーバラがその日の事を話し出した――その矢先だった。
「おい、また来たのか、異国の田舎貴族坊ちゃんよ」
背後から聞こえたのは、今一番会いたくない相手の声だった。
ノエルは顔面を蒼白にしたバーバラを見ながら、深く息を吸い込む。
「――お久しぶりです、ハミルトン殿下」
声をできるだけ平坦にして、ノエルは振り返った。
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