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うるさい横を置いて、ガスマスクの少女はこちらへ歩みを進める。
「〈世界の穴〉のせいで、人が亡くなったと聞きました」
その言葉に、ゆっくりとナタリアが口を開いた。
「私の、両親です」
マスクのせいで目しか見えなかったが、本当に辛そうな顔をして、少女は頭を深く下げた。
「申し訳、ありませんでした」
誘拐犯を名乗る少女の予想外の謝罪に、ナタリアは思わずたじろぐ。
「お名前を、聞かせていただいても......?」
「ナタリア。ステラ・ナタリア・イストリア」
その名を言った時、エンと呼ばれていた後ろの少女が反応したのは気のせいではないだろう。
「ナタリアさん。ご両親の御冥福をお祈りします」
もう一度深く頭を下げて、ガスマスクの少女は戻っていく。
「待って!あなたたちは一体何者なの!?」
叫んだナタリアに、瓦礫の上の少年が言う。
「言ったろ!?俺たちゃDC5!そして俺が団長、〈命令〉の能力者、一条レイ!!」
大げさにポーズをとり叫んだ少年に続き、
「......〈言葉訛り〉。二階堂エン」
短い言葉からもイントネーションに違和感を覚える少女が続いた。
「ちょっと勝手に団長にならないでくださる!?......コホン。ワタクシは、〈柔包言〉の能力者。三ノ宮ツツミですわ!」
縦巻きロールの少女が笑う。
「うっす!〈言葉のキャッチボール〉、四谷ケンと言います!よろしくお願いします!」
坊主の少年が、帽子はないが、帽子を取るようなジェスチャーをしながらキレよく頭を下げた。
「そして私は......爆弾魔。ただの爆弾魔」
ガスマスクの少女は言う。誘拐犯ではなく、爆弾魔と言った。
「私達は大量の言霊を集めています。その為、少しでも言霊を体内に貯蔵できる子供を誘拐していました。しかし、普通の子供では一人から吸収できる言霊量が少ないのです。そこで、皆さんキャスターにも手伝って欲しいのです」
「言霊を、集める?」
何のためにと聞くと、一言が返ってきた。
「『平和』の為」
「平和......?」
「ええ。詳しく話しても、きっと皆さんは反対する」
スッと、右腕を上げたガスマスクの少女。その手には紙飛行機。左手はポケットに入れたまま。
「ですから、皆さんも誘拐します」
空気が変わった。
同時、背後の四人は注射器のような物を二の腕へ突き刺した。
吸い込まれていく青い液体。
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