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一通りのメディカルチェックを受け、自室に帰ったナタリアは、愛用の木製机の引き出しから一枚の封筒を取り出す。
可愛いらしく装飾が施されたそれを開けると、中から女児向けキャラクターが印刷された手紙が出て来た。
「エンちゃん......」
崩れた幼い字で書かれた手紙の最後。
『エンより』の文字を、ナタリアは見つめる。
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それは、ナタリアが日本へ引っ越して来てすぐの頃。
とある女児向け雑誌の企画で、『読者同士の文通をサポートする』というものがあった。
日本語の勉強も兼ねて、ナタリアは両親に頼みそれに応募した。
その時文通を始めたのが、エンだった。
彼女は、地方のド田舎から東京へ引っ越して来たらしく、言葉が全然通じないと嘆いていた。
ナタリアと似た悩みの彼女は、良い文通友達となった。
彼女との交流は、ナタリアの両親が死んだ時まで続いていた。
閉じこもってからは連絡を断ち、外へ出てからも気まずくて手紙を出せていなかった。
──まさかこんな形で再開するなんて。
二日後、駅前で待ち合わせをした彼女はいったい何故あんなことをしているのか。
──まずは謝って、そして問い正そう。
恐怖を決意とともに拳でぎゅっと握りしめ、封筒を引き出しにしまった。
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「無理じゃな」
メカニックが首を横に振る。
「規則性も法則も、何一つわからん。やはりこういうのは本業の奴に頼むべきじゃろ」
彼女がオレに手渡して来たのは、一枚の紙が入った強化ガラスの箱。
ガスマスクの少女が、〈世界の穴〉を飛び越えた時落としたものだ。
そこには謎の記号が大量に書かれていた。
何行も横に並んでいるそれは、おそらく文になっていると思われる。
「これが言ってた『爆弾』か?」
メカニックが首をひねる。
「うん、多分」
「そうか。話を聞く限りの威力じゃあこのガラスは割れん。安心して持て」
そう言った彼女から箱を受け取る。
メカニックは薄く笑って続けた。
「さて、諏訪よ。暗号解読のスペシャリストを呼べ。お前のことだ、コネなどいくらでもあるだろう」
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