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突然の、毅然とした反撃。俺は唇をかみしめる。激情も言葉も、途端にしぼんでしまった。
壮絶でかたくなな、凛の愛。もう誰にも、凛を救うことはできないんだろうか。そんなの哀しすぎる。むなしすぎる。
「……でも北斗だって、それを願ってるよ」
一番言いたくなかった言葉。だけど一番力を持っていそうな言葉。
「分かってる」
凛は言った。すっかり貼りついてしまった笑顔のままで。
やるせなさがこみあげる。
なにもない俺から、本当になにもなくなった。凛にあげられるものは、なにも。
「元気で」
からっぽになった俺。過去でぎっしりの凛。もう俺にできるのは、ここからいなくなることだけだ。
「出て行くのか?」
凛は心底、意外だというように言った。声は裏返りかけてさえいた。
「……だって、もう、終わりだよ?」
置き去りにされた子供のような、よれよれの声が出た。凛を振り返れない。
「終わり、なのか?」
かなしい。いろんなことが。たぶん一番かなしいのは、自分達の弱さ。
「ここにいろよ」
新しい涙が、俺の頬をつたう。なにに対しての涙なんだろう。こらえようとしても、止められない。
「今日はリゾットだよな、行くぞ」
やさしい響きさえ持った声。
凛が、分からない。
「ほら、なにやってんだよ。着替えろよ」
後ろから、凛の大きな手が俺の頭に添えられる。
つい、うなずいてしまった。俺にも俺が分からない。
俺達はもう完全に、壊れてしまったんだろうか。ただここで、朽ちて埋もれていくんだろうか。
数日後の夕方。俺は孤島に取り残された気分で、リビングにいた。
凛はファンレターが届いた日の夜からずっと、ろくに食事もせずに仕事部屋にこもりきりでいる。まともに顔をあわせてさえいない。
メロディーが出てこない、と凜は言った。それでもなんとか、曲を作ろうとしているようで、時々キーボードの音が聞こえてくる。でもそれは、本当に時々で、同じところで足踏みしているようだった。
「凛、どうしたの!?」
突然、派手な音がした。物が倒れるような音。立ち上がり、凛の仕事部屋へと走る。
「入ってくるな!」
俺は思わず手を離した。つかんだドアノブに電流が走ったかのように。
「大丈夫? ケガしてない?」
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