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キーボードを前に頭を抱えている凛。鬼気迫る表情で作詞している凛。ツアーをサポートするメンバーと、険しい顔で話しこんでいる凛。
「俺、すげえな。音楽やってる時、こんなかっこいいんだ」
心から感心したように言う凛。俺は笑って、凛の肩に肩をぶつけた。
「ダメじゃん、それ自分で言っちゃ」
俺が言うと、凛ははにかんだ笑みでページをめくった。
「うぬぼれじゃなく、時にはそう思わないと、つぶされそうになるんだ。実際、北斗がいなくなって、俺はつぶれちまった」
俺は笑みを消し、凛を見つめた。
「手紙が入った段ボール、めちゃめちゃ重かった。その重み以上に、応援されてるのを実感できた。お前のおかげで目が覚めたよ」
そっと、ほんの一瞬だけ唇を触れあわせるキス。
「ダメだよ、北斗に悪いよ」
俺は照れまくり、あわてた。北斗の最後の作品を前に、キスなんて悪いと思った。
「かわいいこと言いやがって」
くしゃくしゃと髪をなでられる。写真と同じ、凛の笑顔。うれしかった。まぶしかった。
「俺、お前に甘えたり、甘えられたりする時間が好きだった。こんな、歌えなくなったどうしようもない俺でも、存在してていいんだ、って思えたから」
俺は写真を見つめてるふりで、湧き上がってくる喜びに耐えた。優しくてせつなくて、泣きそうだった。
「ごめんな、どうしてもお前と北斗を重ねちまって、そんなんでお前にふれちゃ、悪いと思って、だから……」
不器用な凛の言葉。俺はやっとの思いで言った。
「……もう、いいから。北斗に悪いよ」
「あいつもきっと、安心してるよ」
そっと頭を抱き寄せられる。
「都合、よすぎるよ」
泣きべそをかいているような、ぼそぼそと情けない声が出た。顔を上げられない。
「だよな。ごめんな」
謝らないで欲しい。謝らなくていい。俺は凛の手を握りしめた。
その後、俺達は黙って、ファイルの続きを見た。ファイルの後半は、凛の笑顔ばかりだった。ライブ中の、充実感に満ちてる笑顔。打ち上げでの、楽しそうなスナップ。
凛は懐かしそうに目を細めて写真を眺め、そっと最後のページをめくった。
ラブソングを歌え!
ページいっぱいの文字は、一見力強そうに見えたけど、線が震えていた。
俺の分までいい歌作らないと、化けて出てやるぞー 北斗
挟んであったメモ用紙に、小さく弱々しい文字。ふざけてる言葉と、字の弱さのギャップがせつない。
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